近年、日本からイギリスへの対外直接投資が拡大している。12年の対外直接投資額は 1 1 8 億 8 2 0 0 万ドルであり、これは、アメリカ、中国に次いで第 3 位に位置する。12
年 3 月末時点で、イギリスに進出している日本企業の現地法人数は 6 0 1 社、イギリスにおける日系企業による雇用者数は 14 万 7 0 5 人となっているが 、このような状況の下、イギリスでの新たな事業展開を検討する日本企業がさらに増えていくものと思われる。
しかし、日本企業がイギリスで従業員を雇用する場合、日本と異なる問題が生じることに注意しなければならない。イギリスは、イングランド、スコットランド、ウェールズ、および北アイルランドの四つの国から構成される連合王国であることに加え、英連邦諸国からの移民の受入れやEUの国境緩和政策等の歴史的および政治的な理由から、日本よりもはるかに多様な民族構成を有し 、出 身 地や 人 種に よ る差 別(discrimination)に関する紛争が多い。また、イギリスでは、日本と異なり、シビル・パートナーシップ法 (Civil Partnership Act)により、男女の婚姻とは別枠の制度として、同性カップルにも男女の結婚とほぼ同等の権利、義務、保障が認められており、雇用の場面においても、同性愛者や性転換者を職場で差別してはならないということが法律で明確に定められている。このような相違に加え、後述のとおり、イギリス人の国民性は日本人と比較し、訴訟に対する抵抗感が少ないことから、イギリスに進出する日本企業が、現地でどのように従業員をマネジメントし、どのようなリスクがあるかを把握しておくことは極めて重要である。そこで、本稿では、日本企業が現地で見落としがちな、しかし、特に気をつけていただきたい職場における差別問題に焦点を当てたい。